2019. Apr. 24
「注染(ちゅうせん)」という、大阪発祥の染めの伝統技法。その特徴と自由で現代的なデザインをかけ合わせ、手ぬぐいの良さを再認識させてくれる株式会社ナカニのファクトリーブランド「にじゆら」を取材しました。
前回の記事でご紹介したのは、東京にある店舗「染めこうば にじゆら」で出会った、注染特有のにじみやぼかしが美しい手ぬぐいや雑貨の品々。ここに並ぶにじゆらの手ぬぐいは税別1,600円ととてもお手頃な価格帯ですが、その一枚一枚が熟練の職人による丁寧な手仕事から生まれています。今回は、注染手ぬぐいが一体どのような工程を経て生み出されているのか、そしてにじゆらが大切にしている伝統技法への想いにフォーカスします。
店内に注染のデモ機が設置されている「染めこうば にじゆら」で実演やワークショップを行いながら教えてくださったのは、東京営業所で所長を務める田中啓介さんです。
最初に紹介していただいたのは、こちらの「型紙」。染料で染めない部分だけが細かく切り抜かれています。この下に生地を置き、上から「防染糊」を木へらでムラなく伸ばしてこすりつけるのだそう。一枚終わると残りの生地を折り返し、これを一疋分の25回繰り返します。重ね合わせた生地の図柄がずれないようにピッタリと糊置きをする必要がありますから、注染においてとても重要で繊細な工程なんです。
ここで使う「木へら」は、防染糊を均一に置くために大切な道具。側面にある凹みはもともとあったものではなく、職人さんが使い込んでできた「指の跡」なんですって!これほどまでに力のいる作業だということです。
糊置きが終わった生地を折り重なったまま染め台に置き、必要のない部分に染料が流れ出さないように糊で土手を作ります。ここからは「染めこうば にじゆら」のワークショップで誰でも体験することができますが、実際に体験されている方々の様子を見ているとなかなかに難しそう。細かな図柄を潰してしまったり、土手が決壊してしまわないように注意が必要です。
使用する糊は海藻と土で作られたもので、磯の香りがします。湿度や気温によって扱いが変わるため、ここにも職人さんの熟練の経験と技術が求められるのだそう。
お次に使うのは、「ドヒン」と呼ばれる注染用に特別に作られたジョウロです。染液が漏れずに注げるよう、注ぎ口に工夫がされています。
ドヒンを使って土手の中に染料を注ぎ、染め台に設置されている減圧タンクで一番下の生地まで染料が染み込むよう吸引しながら注いでいきます。じんわりとやわらかににじみ混ざり合う注染特有の色合いは、こうして生まれているんですね。染料が染み込んでいく様子は、実際に見ているととても惹き込まれるものがあります。
染めが一通り終わると、工場では「川」と呼ばれる洗い場へ向かい、防染糊と余分な染料を素早く洗い落とすのだそう。変色しないように乾燥をさせて、やっと25枚分の手ぬぐい生地が染め上がるのです。
職人さんが商品として販売できるものを仕上げられるようになるには鍛錬が必要であり、この先の注染技術を受け継ぐ職人を育てていくことも課題です。そのためにも、こうして丁寧に作り方を伝えて、注染への理解や関心を広めることを大切にしているそう。そんなにじゆらの想いに共感する若い職人さんも徐々に集まり育っています。
この日、注染の実演を見せてくださった田中啓介さんは、企業とのコラボレーションを推進するなど、営業活動を主にご担当されているそう。
大手電機メーカーの営業職やインテリア会社での経営に携わったのち、にじゆらの東京出店と同時に現在のお仕事に就かれたそうです。にじゆらを手がける株式会社ナカニの中尾雄二社長とは電機メーカーでの新入社員時代の同期で長年の友人という間柄なのだとか。
田中さん 「にじゆらは昨年が10周年。ブランドが生まれて5年ほど経った頃には、関西ではもう色々とメディアで取り上げていただいたりして、注染という伝統技術についてかなり注目してもらえるようになっていました。その頃、僕は別の仕事をしていましたが、にじゆらが東京で初めてのイベントをやるということで手伝いに来ていたんですね。それがこの場所(2k540)でした。ここは東京中のものづくりが好きな人たちが集まる場所ですから大阪で話題になっている注染のこともみんな知っているだろうと思いきや、誰も注染を知らないんです。催事自体はそこそこの売り上げにはなって商品も良いものであるということはわかっていただけたのですが、それを支える注染については全然認知されていないということが問題でした。そして、東京のものづくりの集積地であるこんな場所で出店できたらいいなぁと考えるようになったわけです」
大阪生まれの「注染」ですが、大阪、浜松と並ぶ三大生産地のひとつと言われているのが東京です。しかし東京に長く暮らしている人も、その技法について知っている、見たことがあるという人はほとんどいないのではないでしょうか。にじゆらが催事をきっかけに東京での注染の認知の必要性を感じてほどなく、2k540のテナントに空きが出たため関東での初出店が決定。東京の責任者として、田中さんが抜擢されました。新店舗に注染の実演や体験ができるデモ機が設置されているという背景には、こうした経緯も関わっていたんですね。
田中さん 「注染という技術は日本独特の、特別なものです。プリントと違って糸自体に染料を通して染めているので、ごわつきがなく洗うとしっとり柔らかくなりますし、裏表がなく使うことができておしゃれなものです。工程として土手を作って色を重ねていくため染めのグラデーションが生じますが、染めの業界ではこのにじむとか混ざるということはどちらかというとネガティブな印象を与えるものなんです。しかし私たちはそれを逆手にとって、あえてにじんだりゆらいだりするということをアジとして伝えようということで、にじゆらという名前にもなっています。職人さんが丁寧にやって生まれているにじみとゆらぎのいいところを知ってもらわないと、という気持ちでやっていますね」
こうした想いを伺うと、手ぬぐい一枚一枚の、唯一無二のにじみやゆらぎが本当に愛おしく芸術的に感じられるものです。手に取った一枚との特別な出会いを楽しみ、大切に使っていきたくなりますね。明日公開の記事では、注染手ぬぐいのお手入れ方法や、日常の中でのさまざまな楽しみ方をご紹介します!ぜひあわせてご覧ください。
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