ライフスタイル

“暮らしに役立つものを実直に”慈しみを感じさせる柴田慶信商店のものづくり

2019. Apr. 17

BY 鈴木一禾

前回は、大館曲げわっぱの歴史とともに、お弁当箱やおひつなど、柴田慶信商店の看板商品にスポットを当てて商品の魅力についてご紹介しました。

今回は、柴田慶信商店ブランド誕生の背景や、伝統的な大館曲げわっぱのなかでひときわ際立つ存在となるまでのご苦労などについて、二代目としてご活躍されている柴田昌正さんにお話を伺いました。

柴田慶信商店誕生の背景

柴田慶信商店を立ち上げたのは、柴田昌正さんの父にあたる慶信さん。創業当初は曲げわっぱとは無縁の方で、独学で技術を学んだのだそう。

「もともと父は地元の営林署※ に務めていたのですが、本人にとってやりたい仕事ではありませんでした。実家が農家でしたから、繁忙期に請われて伐採などの作業を引き受ける、いわば契約の仕事。その頃から曲げわっぱには興味があり、古いものを買ってきては分解してみるという具合に、誰にも弟子入りせずに、知識も技もほとんどを一人で学んだようです。」
※(編集部註)営林署…現在の森林管理局。主に国有林の管理などをする官庁のこと

 

試行錯誤が繰り返されるなか、曲げわっぱ作りだけでは生活が成り立ちませんでした。大館曲げわっぱの売れ行きが伸びるのは、昭和55年に経済産業省の「伝統的工芸品」に指定された頃で、それまではたいへんなご苦労があったようです。

「曲げわっぱ作りを始めた当時、父は25歳。独学なものだから、なかなか思うようにいかない。温厚なタイプではなかったため、失敗作を父が床に放り投げ、それを母が拾い上げてやり直すの繰り返し。曲げわっぱ作りでは生活が成り立たないため、山に出かけては山菜を採って朝市で売るようなこともしていました。決して裕福とはいえず、すでに子供も3人いるなか、母の支えは大きかったはずです。」

慶信さんは、技法を独学で習得しながら、継ぎ目のウロコ綴じ模様(厄除けの意味があるのだそう)や子持ち縫いなど、伝統的な技法の復興にも尽力。そのかたわら、消費者の声にも真摯に耳を傾け、従来にはなかった製品を生み出してきました。

古き良きものを丹念に掘り起こしながら、使い手にも寄り添うことで大館曲げわっぱの新時代を切り拓き、今に至っています。

素材への慈しみと仕事に対する矜持

http://magewappa.com/category/blog/160520.html

大館曲げわっぱが発展するのに欠かせなかったのが、天然秋田杉の存在。成長が緩やかであることから年輪の幅が狭く見た目が美しい。強度にも優れるのが特徴です。

「天然の秋田杉は樹齢約150年以上。それを下回るものは、肥料によって成長を早められているため、木目の間隔が広くなりがちです。そのため見た目や丈夫さも劣ってしまいます。」

豊富な森林資源を背景に、秋田藩の初代藩主 佐竹義宣公が武士の副業として曲げわっぱ作りを奨励。その慣例に従って、柴田慶信商店でも天然の秋田杉だけを材料として使用してきました。ところが、平成24年に天然秋田杉の伐採が禁止されてしまいます。

「現在は、入手できる最良の材料として、北東北の風土がじっくり育てた岩手や青森の天然杉を主に使っています。樹齢の若い杉は加工する際に割れたり削げたりして不良品が出やすいし、いい素材を使ったほうが職人たちのものづくりへの動機づけも高まり、よい仕事につながる。素材の問題は、経営者としても職人としても最良の判断をすべきところだと感じています。」

かつて安価なプラスチック製品が普及した際、需要の低迷を受けて、汚れにくくお手入れがしやすいよう、曲げわっぱの内側外側両面にウレタン樹脂塗装を施した時期もあったといいます。

「ところがそれでは吸湿性や香り、抗菌作用といった天然杉の効能がいかされず、本当においしいご飯が食べられない。素材だけでなく、曲げわっぱを使用する人と場面を考えながら、純粋に暮らしに役立つものを実直に作り続けたいと考えています。」

昌正さんのお話を伺っていると、材料に対する畏敬の念のようなものが感じられます。“こだわり”という言葉ではいい尽くせない、慈しみや愛に似た気持ちと、職人としての品格の高さが、柴田慶信商店のものづくりを支えているのがわかります。

天然杉を育む緩やかな時間の流れのように

柴田慶信商店には、入手するのに半年ほど待つ商品もあります。ところが、無理に生産量や販路を拡大するつもりはないとおっしゃる昌正さん。

「お待たせしてしまうのはとても心苦しいことですが、一人の職人が手がけられる数はどうしても限られます。初期の頃、父が問屋さんに卸していたことがあったんですが、景気に左右されてどうもうまくいかない。無理をすれば、いずれほころびが出てくるものです。大切なのは、お待たせしてでも、よいものを長く作り続けることだと思っています。」

曲げわっぱができあがるのを待つ時間も楽しみの一つ。昌正さんのお話が、長い時間をかけて育まれる天然杉の生き様とシンクロするようで、とても感慨深く思えたインタビューでした。

次回は、曲げわっぱのある暮らしに注目。おすすめの使い方やお手入れ方法、毎日の食を豊かにするアイデアなどについてご紹介します。

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